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2020年07月17日

【知 識】腹膜転移を伴う膵がんに対するオリジナル治療法の多施設共同臨床試験実施


関西医科大学外科学講座 里井壯平(さといそうへい)診療教授(研究代表者)、名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学 小寺泰弘(こでらやすひろ)教授、山田 豪(やまだ すぐる)講師、富山大学の藤井 努(ふじいつとむ)教授らを中心とした研究グループ(東北大学、北海道大学、広島大学、愛媛大学を含む7大学)は、腹膜転移(※1)を伴う膵がん(ステージ4)に対してゲムシタビン・ナブパクリタキセル(※2)療法に加え、パクリタキセル(※3)の腹腔内投与を併用するというオリジナルの治療法を考案し、国内で多施設共同臨床試験を実施した。

ステージ4の膵がんに対してはゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法が標準治療とされているが非常に生命予後が厳しいため、これに加え患者に腹腔ポートを造設してパクリタキセルを直接腹腔内に投与する。Phase Iとしてこれらの抗がん剤の用量規制毒性(※4)を評価して推奨用量を設定した後、Phase IIとして46名の患者が登録した。この臨床試験の主要評価項目は1年全生存割合であり、副次評価項目は抗腫瘍効果、症状緩和効果、安全性、全生存割合が評価された。治療成功期間(※5)中央値は6.0ヶ月であり、治療奏功率(※6)は49%、病勢コントロール率(※7)は95%と非常に高い治療効果が得られた。がん性腹水は40%の患者で消失し陽性であった腹水のがん細胞は39%で陰性になった。生存期間中央値は14.5ヶ月、1年全生存割合は61%だった。従来、腹膜転移を伴う膵がん(ステージ4)は手術を行うことは困難だったが、この治療法によって腹膜転移が消失して最終的に膵がんの切除まで行えた患者は17%であり、切除できなかった患者と比較して明らかに生存成績は良好だった。この治療法の血液学的な副作用は76%、非血液学的な副作用は15%と高めだが、治療中に大きなトラブルなく管理できた。以上の結果から、これまで有効な治療法がなかった腹膜転移を伴う膵がん(ステージ4)に対して、ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法とパクリタキセル腹腔内投与併用療法は有望な治療法であると考えられ、難治性膵がんの治療成績を向上させることが期待される。


※1 腹膜転移
消火器にできたがんが原発臓器から腹腔内に広がる遠隔転移

※2 ゲムシタビン・ナブパクリタキセル
現在、切除不能膵がんに対する標準化学療法であり、2剤を併用する点滴治療

※3 パクリタキセル
抗がん剤の1種、腹腔内投与には有効といわれている

※4 用量規制毒性
新規抗がん剤を患者に投与する際に、これ以上の増量ができない理由となる毒性(有害事象)

※5 治療成功期間
原病の増悪、治療の副作用およびあらゆる死亡を含めてすべての理由により治療が中断された場合の中断までの期間

※6 治療奏功率
CR(完全奏功)とPR(部分奏功)の合計

※7 病勢コントロール率
CR(完全奏功)とPR(部分奏功)の合計である治療奏功率に腫瘍の大きさが変化しない状態であるSD(安定)を加えた割合

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投稿者:gotsuat 09:35| 知識