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2010年07月09日

【知識】日本製紙と凸版と花王 TEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いた包装材料を共同開発

日本製紙、凸版印刷、花王は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを利用した包装材料の開発を共同で行う。この共同開発は、2010年4月に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト(ステージII)」に採択されている。3社は、それぞれの持つ技術力を連携させ、生分解性を持ち、耐熱性や酸素バリア性に優れる高機能包装材料の実用化を目指す。 

セルロースは木材などの植物細胞の繊維の主成分で、植物を構成している物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物であり、紙の主原料(パルプ)としても知られている。ナノファイバーとは太さ1ナノメートル(※1)から100ナノメートル程度の繊維で、ナノレベルの細い繊維は従来の繊維と比べると、1)比表面積(※2)が大きいため触媒や吸着剤として優れた効果を発揮する、2)分子が整って配列していることから、強度・弾性に優れる、などの性質を持ち、これまでにない新しい機能を持つ素材として期待されている。特にセルロースナノファイバーは木材から作ることができ、生産・廃棄において環境負荷が小さいことから、その製造方法の研究、および用途開発が、国内外で盛んに行われている。 

セルロースナノファイバーをつくるためには木材のセルロース繊維を細かくほぐす必要がある。セルロース繊維は、繊維と繊維が強固に結合しているため効率良く均一にほぐすことは困難だったが、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯貝教授らは、2006年、機能性触媒である「TEMPO」を用いて酸化することにより、セルロース繊維が容易にほぐれて、均一なセルロースナノファイバーとなることを世界で初めて見出した。 

TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、1)木質バイオマス由来で生分解性を有する、2)結晶性が高く耐熱性に優れる、3)透明性が高い、といった種々の優れた性質を持っている。

東京大学、日本製紙、花王は、NEDO「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト(ステージI)」において、ポリ乳酸(※3)などのバイオマス由来の樹脂フィルムとTEMPO酸化セルロースナノファイバーを組み合わせて酸素透過性が低いフィルムをつくり、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの包装材料への利用可能性を検討した。その結果、酸素を通しにくいという特性を生かし、食品等の保存を目的とする容器包装への活用など、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いた樹脂フィルムを、環境に配慮した高機能包装材料として実用化する可能性を見出した。

このステージIの成果を踏まえて、日本製紙、花王および、ガスバリア包装材料の生産で高い技術力を有し、ステージIにアドバイザーとして参加した凸版印刷の3社は、今後、3社が連携して、最適な木材原料の選定からTEMPO酸化セルロースナノファイバーの製造・品質の向上、パッケージ化および最終製品における包装材料としての性能評価まで、一貫した研究開発を効率的に行う。また、3社はプロジェクトと並行して、具体的な実用化に向けて、市場性やコストなどの事業採算性の見極めを行う。


※1 ナノメートル
1ナノメートルは百万分の1ミリメートル

※2 比表面積
単位重量あたりの表面積

※3 ポリ乳酸
トウモロコシなどに含まれるデンプンなどからつくられるバイオマスプラスチック

※ 製品名および会社名は、各社の商標または登録商標です

投稿者:gotsuat 09:35| 知識